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ババァが思い出す幼い頃の一日は、ガタガタと上手く開かない木の雨戸を力ずくで開ける事から始まる。

初めて見た冷蔵庫は、祖母の家の木の冷蔵庫。上の段に氷屋さんで買った氷を入れて冷やす。
家の冷蔵庫は木ではなかったけれど、冷凍庫はもちろんないし冷凍食品など見たこともない。
朝は母が時間をかけて作ってくれた朝ごはんを食べて、お弁当をもっていってきまぁす。


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大きな哺乳瓶の後ろの白い物体が冷蔵庫。
帰ってきたら勉強や宿題をして、毎日おつかいに行く。
スーパーもコンビニもない。あるのは近くの商店街のみ。そこに魚屋、肉屋に八百屋に酒屋、金物屋さんに薬屋さんと勢揃い。
大きな買い物カゴとメモを持って行ってきまぁす。

子供がおつかいに行くと、「えらいねぇ」とみかんやコロッケ屋さんのポテト一個、必ず貰えて嬉しかった。
ババァが大好きだったのは、八百屋さん。そこにいた恵子さんという綺麗で優しいお姉さん。夏はスイカ、秋には梨や大きな栗を剥いてくれたり、お客さんが買った野菜を新聞紙でくるむお手伝いをしたり。


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お誕生日。ビニールでできた空気で膨らませる、だっこちゃんというお人形が、ものすごい人気だった。
今から見るとなんでだろうと思う。

それから洗濯機。洗濯した物を、二本のローラーの間に通して、横についたハンドルをグルグル回すと脱水されてペシャンコになったバリバリの服が出てきて、パンッとはたいて
竿に干す。

夕方になると、プーピープーとお豆腐屋さんの鳴らす音がして、お鍋を持って外で待ってお豆腐を買う。

みんなでお夕飯をいただき、沸くまでかなり時間のかかるお風呂に入って、そして最後に押入れから重たい布団をどっこいしょと出してきて、川の字になっておやすみなさい。


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丹前を着た父と、パジャマの姉とババァ。

何をするにも今より断然時間がかかったけれど、今よりのんびりしていた様に思う。

ここまで便利になって、昔に戻りたいとは思わない。けれど時間はかかってもたくさんの情報に左右されないぶん、頭を悩まさずに済んで、家族の時間がたっぷりゆっくりだったように思います。
まだまだ共働きの世帯が多くなかったこともあるでしょう。

今、スマホがなくて、黒のダイヤル式固定電話しかなかったら、人差し指でカタカタカタと回して、ジーーッと戻るまでの時間、ババァはもどかしくて、待っていられないかもしれません。
リ〜ンリーンと突然ものすごい大きな音で鳴る黒い電話が懐かしい。

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今から60年前の、クリスマス。